「もどりたい」とは言うものの……。

「もどりたい」とは言うものの……。

「で……どうしたいの? 言わないとわからないでしょ」
とまたもや詰問するかのような口調で聞いてしまった。

土曜日の夜、スタッフたちと『うなぎを食べる会』を開催した。
久しぶりに皆で集まっての食事会だった。
パートさん、アルバイトさんばかりなので、一堂に会することはほぼない。
だから食事会を開くようにしているのだが、なかなか企画できずだった。
会の終盤に弟に
「19時は何時?」
と12時間表記にすると何時になるかの質問が代診の先生から浴びせられた。
何分かかっても答えられない弟。
時間の概念が抜けきっているのだから当たり前だ。
覚えようともしない。
それが障害なのだから仕方がないのだけれど、24時間表記と12時間表記があり、24時間表記を12時間表記するにはマイナス12することを頭に叩き込めばいいことなのだが、何度か教えたが覚えていないし、その暗算はほぼ出来ない。
ST(言語聴覚士)さんから、毎回、四則計算の宿題が出ているが、それは電卓を使ってやることとなっている。
時間の概念は生活していく上で必要なスキルであると思っているので、なんとか身につけてほしいのだが、本人の危機意識はゼロである。
だから自ら答えを導く努力もしなければ、その術を人に尋ねることもしない。
全てにおいてこの状態なのだ。

「19時は何時?」
の質問に答えることもせず、ヘラヘラしている弟を見て、自分の今までの歩みはなんだったんだろうか? と自問自答した。
そしてとあることを思い出した。
ここ数回、パパと一緒に弟を食事に連れ出して、送り届けた際に、以前なら
「ありがとうございました」
と言っていたのに、今は
「どうも」
だけで去っていく。
どこで変換したのだろうか?
誰の影響なのだろうか?
ワタシにだけならいいが、弟のために、自分の生活を棒に振ってくれているパパには、ちゃんと感謝していてほしい。
やはり弟の壊れた脳内には、感謝の心は未だに芽生えていないのであろう。
そんな弟に説教しても仕方がないのだが、スタッフたちの前で
「ワタシにはどうもでいいけれど、せめてパパには、ありがとうと言ってね」
と伝えた。
響いてはいないだろうけれど……。
なのに『うなぎを食べる会』後に弟を送り届けたら、無言で立ち去ろうとする。
「黙って去るな。おやすみなさいとか言えないの?」
やはり全くわかっていない。
で、冒頭の
「で……どうしたいの? 言わないとわからないでしょ」
になるのだが。

本当のところ、今後、どうしていきたいのかを聞きたかった。
何度、同じことをたずねても、押し黙ったまま1時間が過ぎていたが、今日は聞いて帰らねばと粘ったら
「言っても全部否定する」
といった趣旨の言葉を吐いた。
「否定はしていない。あなたはそのために何をしているのか? といつもたずねているんでしょ」
と答えると
「(歯医者に)もどりたい」
と言う。
「じゃあ、何をするの? 何をすればもどれるの? もどれると思うの?」
と問いかけると、また押し黙る。
漠然ともどりたいと思っているだけで、努力しない。
努力する術を知らないのだ。
それが高次脳機能障害なのだ。
「こう言うことをしてみたいと言われれば、皆で頭を突き合わせて考えるよ」
と言っても、具体的に何をやってみたいとの発言も出来ない。
それでは全くリハビリにはならないし、ワタシたちが何をすべきかが見えてこない。
やはりまだ無理のようだ。
もう少し、押すべきところを変えてみようかと思う。
パパがとある最終手段を使うべきではと提案してきたが、それを使うのはもう少し待とう。
でも使うべき時は近いのかもしれない。

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