「交通事故に遭ってから、覚えられないことが多くて……」
と初診でいらした患者さんからの言葉を聞き
(高次脳機能障害だ)
と即、判断した。
今まで、歯科医院の受付業務をしていて、患者さんから、このような言葉を聞いたのは初めてであるが、仕事と生活のサポートをしている弟が高次脳機能障害となったことで、身近な障害のひとつとなった。
見えない障害と称されるように、見た目は普通であることが多い。
この患者さんは、短期記憶が抜けることが多いようだ。
お渡しした診察券は行方不明となった。
毎回、ご家族宛に治療の詳細と、次回の診察予約日を記したお手紙を添えるようにしているので、診察券が行方不明となっても、予約の日には、おひとりで歩いていらっしゃる。
「枕元にコレ(お手紙)とコレ(保険証が入った袋)を息子が置いてくれているから、それを持ってくるんだ」
とおっしゃる。
ここまでになられるのに何年の月日を必要としたのであろうか?
ご家族の思いを想像する。
実は弟のリハビリに、行き詰まりを感じている。
きっかけはスタッフと弟のちょっとしたイザコザだった。
弟の仕事としている作業に間違いがあり、それをスタッフが指摘したら
「こんなの本来のオレの仕事じゃないのに!」
と怒りを抑えられなかった弟。
「それならやってもらわなくてもいいです」
とスタッフ。
弟に非があるのは明らかなのに、謝ろうとはせず、ふたりの間には大きな溝ができた。
ここまで頑張って、皆でなんとかやってきたのに……。
そんな悔しい思いを抱えながら、日々を送っていた。
そして、今回のことをSTさんに相談したところ
「脳神経外科の先生から、高次脳機能障害であることを踏まえて、どうリハビリしていくべきか、どう生活していくべきか、本当に歯科医師としての復活はあり得るのかなど、話をしてもらうのはどうだろうか?」
とのご意見をいただいた。
基本、木曜しか動けんのだが……。
と思い、担当脳神経外科へ電話を入れると、案の定
「木曜では確約しかねる」
とのお返事。
「緊急オペが入れば、診療予約してあっても、それはチャラになってしまいますよ」
とおっしゃる。
「金曜じゃないとね」
と……。
ふとカレンダーを見ると、あぁお盆休みがある。
ならば金曜日に行ける日が一日だけある。
「この日じゃダメですか?」
とお聞きすると
「お盆ね〜。みなさんお盆狙っていらっしゃるのよね〜。待ってもらわないとになりますが、あと話が長引くと思うので最後の時間に取りましょう」
でなんとか予約できたが、実はアスカの抗がん剤注射の予約もその日に入ることになりそうで、非常に悩ましい。
さてどう乗り切る?!
アスカはパパに任せるか?
それとも弟をパパに任せるか?
パパの考え方がワタシよりはるかにフラットなので、弟のことをパパに任せたいのだが、パパがどう考えるであろうか???
とりあえず道すじはつけた。
あとはこの機会をどう利用するかである。
弟とスタッフの溝は、ベテランスタッフの配慮があり、謝るところまでは行ったが、未だにシコリは残っているように見受けられる。
なにせ弟は自分の与えられた仕事をちゃんと出来ておらずなのだから、そうなるのも必然だ。
この1週間、なるべく黙って見てきたつもりだが、まだまだ見えていないところは多くあるし、黙って見ることに徹することは出来なかった。
これについても継続して、見ていくこととせねばなるまい。
我々はどこへいくつもりなのだろう。
なにを目指しているのだろう。
旅はまだまだ続く。
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